測定結果

今回は測定にかなり間が空きましたが、その理由は最近ほとんどハイパワーアンプを作っていなかったせいで、このアンプを測定できる環境が無くなっていたことに気づいたせいです。

とくにダミーロードが8Ω20Wまでしか無く、今まではそれ以上の出力時はコップに水を入れ、水冷しながらだましだまし測定していました。
そのため、ハイパワー時にダミーロードが起因で歪率が悪化するなど正確な測定ができていませんでした。

そこで定格100W、左右同時測定、ダンピングファクターON/OFF法測定にもスイッチひとつで使えるダミーロードを製作したり、ケーブル類の用意をしたりして、ようやく測定にこぎつけました。




測定は時間が掛かるので、以後全て代表的な松下6CA7のUL接続を掲載しました。追って他の動作条件のも測定してアップしたいと思います。

左右チャンネルともほとんど揃っており、グラフが重なっています。さすがは新品(NOS)のペアチューブです。

少し予想外に大きな出力が出ました。クリッピングポイントは0.9V入力時に約59Wです。クリップした後も1V入力時は66W、さらに入力を上げていくと、3V入力時に何と111Wも出ています。さらにオシレーターの出力を上げればもっと出そうですが、これ以上は危ないと判断しましたので測定をやめました。

まだ6CA7・UL接続の段階です。これを5極管接続やKT88に交換したら、どれだけ出てしまうんでしょうか。心配になり再度各部の電圧・電流を計りましたが無信号時6CA7のプレート・スクリーン損失を超えるようなことはありませんでした。
高域発振も疑ってチェックしましたが、50Wあたりまでは波形が乱れません。それ以上になると正弦波の頭がつぶれ始め、矩形波ではリンキングが出てきます。しかし大出力でも大変安定しており、TANGOのMS-450DRのレギュレーションが大変良い証拠です。

トータルゲインは28dB、NFBが-12dB掛かっていますので、裸ゲインは40dBです。大変使いやすい数値です。

この時のバイアスは-40V、カソード電流が40mAの時で、常用域(0.1〜1W)の歪率がもっとも小さくなる動作条件を探して決定しました。




歪率です。ムラード型の特徴とアウトプットトランスの特性で低域の方が良い数値になっています。5W程度までは超低歪率で、常用域の0.5Wあたりでは100Hzが最低歪率0.01%です。グラフは載せていませんが、NFBを掛ける前は全周波数帯域で0.1%を割っております。 元々EL34/6CA7は歪みの少ない球として有名ですが、UL接続でこの数値ですから、3結にしたらさらに低歪みになることが予想されます。

低域の歪みが少ないのはコアボリュームの大きいオリエントコアを使用したタンゴのアウトプットトランスのお陰です。さすがはバブル期に向かっていた管球アンプ全盛時代のトランスです。




周波数特性です。これがムラード型カソード結合位相反転方式の特徴です。完全に低域寄りですが、高域安定性を重視して位相補正をしているため、実際にはもう少し高域も伸ばそうと思えば伸ばせます。

しかし今回は色々なパワー管に挿し替えることを考えて、安定性の方を重視しました。
左チャンネルは150kHz付近、右チャンネルは168kHz付近にピークがあり、しっかり抑え込んでいます。グラフ外ですが左チャンネルは730kHz付近にも小さいピークがあります。

-1dBで見ると5.5Hz〜30kHz、-3dBで見るとDC〜60kHzと言ったところです。DCは増幅しないと思いますが。




ダンピングファクターです。左チャンネルで平均4.3、右チャンネルで平均4.9でした。

高域が左右チャンネルで大幅に違いますが、NFB無しの時と同じ右チャンネルが正常で、左チャンネルは原因を究明中です。
音楽のジャンルや好みによって意見の分かれるところですが、数値的には真空管アンプらしい、ほどほどの良い数値です。メリハリもあり、柔らかくもあると言ったところでしょうか。




音出し

高出力アンプは常用域で低歪みとなるため、ローパワーで使用してもクリアな音が楽しめます。

このアンプはその典型的な例で、低域の豊かな重心の低い音、充実した張りのある中域、柔らかくもぼけたところの無い美しい高音を持っており、リファレンス機になる格調高さを持っています。

しかもダイナミックレンジの大きな音楽での追従性は抜群で、瞬間パワーがモノをいうロック系も気持ちよく楽しめます。

特定の曲で、「あ、今ピアノが少し歪んだ」とかがあると気になって仕方ないものですが、このアンプはそのようなことなく、オールマイティで安定したアンプですので、どんな音楽を聴いていても安心感があります。
製作後の雑感

EF86/6267は内部シールドに阻まれて光が見えず暗いのが残念ですが、有名なローノイズ高性能管ですので低歪みで有名な6CA7と相まってスペック的にも良い数値を叩き出し、音質もさすがと言うべきものがあります。

このEF86/6267、また他のアンプでも使ってみたくなってしまいました。

アンプを作る度にだんだんシャーシー構造が複雑になり、もうこんな面倒なのは作らないぞ、と毎回思っていますが、次に作る時はさらに複雑になっています。

また、重量のあるアンプも製作が大変でこりごりですが、良い結果を目の当たりにすると、いつの間にかまた作ってしまう気がしています。




KT-88使用時。6CA7はスマートで美しく、KT-88は太くてかっこいい。

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