測定結果

3台×出力管3種×LとRの2チャンネル=合計18パターン全てを計測しましたが、グラフが煩雑になりますので、全て左チャンネルのみで代表的な計測のみ表示しました。

なにせ18パターン以外にも無帰還時のデータ、ローブースト時のデータ、位相補正前のデータなど全てを計測すると膨大で測定だけで数週間掛かると言う自体になってしまい、ただの数字を見るためのアンプとなってしまいます。

そこでそれほど影響の無い無帰還時のデータ、ローブースト時のデータは試作の方の測定を見て頂くとし、完成時の仕上りデータのみ掲載することにします。

と言うわけで出来れば音楽試聴に時間を掛けたいと思い、測定はほどほどにさせて頂きました。

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トランス別3台の入出力比較(全て6GA4)



6GA4/6V6GT/6F6GTの差換え入出力比較(LUXトランス機)




左チャンネルの入出力特性です。3台に全て同じ6GA4を挿して比べてみました。

なるべく同じ出力になるように調整しましたので大きな違いはありませんが、タンゴが一番電源インピーダンスが低く、レギュレーションが良いためわずかに最大出力が大きくなっています。

クリッピングポイントは3台とも入力1V、その時の出力はラックスとタンゴが2.6W、山水は2.3Wでした。 3台ともトランスによる特徴が出ており、ラックスは電源電圧が少し低いためクリップ後の出力の伸びが低め、山水はOPTの巻線が細いようでDCRが大きくて出力が低め、逆にタンゴは当時の新進気鋭のメーカーだったため挿入損失が低くスペック重視の性格が良く出ています。

最大出力は3台とも5W以上は出ていますが、波形がかなりつぶれてきますので、実用上は3Wと言うところでしょうか。

左下はラックストランスの機種で6GA4/6V6GT/6F6GTを差換えてみた時の入出力比較です。

6V6GTは電力効率が高く、入力1V時に出力3.25Wと少し出力が多めに出ていますが、この程度なら他と差換えても何とか違和感が無い程度の音量になります。

6GA4と6F6GTのUL接続は2Wくらいまでほとんど線が重なっています。

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3台の歪率を6GA4左チャンネルで測定しました。まずラックス機ですが100Hz、1kHz、10kHzの3本とも良く揃っています。

歪率で特徴的なのが山水機で、コアボリュームが一番小さいせいか、低域が目に見えて高域より歪みが多くなっています。しかし良く見ると低域が他のトランス機と同じで、高域の方が歪みが少ない、と言うことで、他機より全体的には歪みが少ない結果になっています。

タンゴ機はラックス機と同様、ほぼ3本とも揃っており、歪率も平均的で特筆することはありません。

上記3台とラックス機で6F6GTと6V6GTを使用した時の1kHz歪率を一番下のグラフに重ねてみました。これを見ると歪率は各メーカーの特徴が良く出ています。

3台の6GA4比較ではラックス機が多めの歪率です。SS5B-5はNFB巻線があるもののインピーダンスが低いため、NF抵抗値で補正してもこのようになるようです。

逆に山水のHS-5は他の測定結果からも解るように、細い線径のコイルを多く巻いているようで、そのために電圧降下が大きくて(DCRが大きめ)出力が少なく、インダクタンスが大きいため歪みが少なく、しかしコアボリュームが小さいため周波数特性では低域がインダクタンスほど伸びていない、と言うことになっているようです。

タンゴH-5Sは一番後期に作られただけあって高出力重視のためか、わずかに最大出力時の歪率が他2機より小さくなっています。

次にラックス機で3種類の出力管を差換えた時の結果ですが、わずかですが6F6GTが一番歪みが多く、次点が6GA4、6V6GTが小出力時には一番歪みが少なくなっています。

しかし最大出力あたりになると6GA4と6V6GTは逆転していて、6V6GTが省エネで効率の良い設計で小出力有利の結果となっています。

LUXトランス機・6GA4の歪率



SANSUIトランス機・6GA4の歪率



TANGOトランス機・6GA4の歪率



3台6GA4+LUX機6V6GTと6V6GTを重ねてみた歪率(1kHzのみ・Left)




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3台の周波数特性比較です。全て左チャンネルです。

ラックスのSS5B-5は位相補正無しでも良い結果です。さすがにNF巻線があるとNFBを掛けた後の処理も楽です。

山水のHS-5は90kHz付近に大きなピークがありますが、ヒアリングで補正をほどほどにした結果です。
問題はタンゴのH-5Sで、何もしなければ周波数特性はかなりの高域まで伸びますが、6V6GTと6F6GTの時に強烈なピークが発生し位相回転を起こすので、かなり綿密な補正をした結果、超人が凡人になってしまいました。

しかも個体差も大きく左と右で同じ補正値にできず、特性とヒアリングのトータルで勘案して妥協点を決めました。


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3台6GA4+LUX機6V6GTと6V6GTのダンピングファクター



6GA4でトランス別に比較すると山水とタンゴは平均6.7、ラックスは4.6となり、ここでもB電圧の影響が出ています。

NFB量は3機種とも-8dBと合わせていますので、もしB電圧が揃えられればラックスももう少々上がると思われます。

球別では予想通りの結果となりました。内部抵抗の低い3極管である6GA4が4.6で一番高く、ビーム管の6V6GTと6F6GTはUL接続ですのでそれぞれ3.2、2.4と低くなりました。

ここでも設計の古い6F6GTより内部抵抗が低い6V6GTの高性能ぶりが出ています。




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聞き比べ

結果から先に言いますと音にほとんど差が無く、普通に使っている限り良く解りませんでした。友人数人にも聞き比べてもらいましたが同意見でした。3台ともシングルにしてはダンピングが良く、どんなジャンルの曲でも気持ちよく再生してくれます。

もっとも差が出ないように計画した3台ですので、それこそが狙った通りなんですが、それでは3台作った意味がありませんので、細かいあら探しをすることにします。

今回は普段は使っていないパワーアンプセレクターを使い、視聴しながら切り換えて聞き比べることにしました。

その結果、わずかですが一番力感があったのはラックス機でした。SS5B-5のコアボリュームが他機より少し大きいためでしょうか。DFが他機より低いわりにはロック系の曲が良かったりします。

山水機は3台の中で一番まとまりがあり、何でも無難にこなします。本当にわずかな差ですが出来は一番良かったかも知れません。

タンゴ機は位相補正前に6GA4では明るく音ばなれが良いと感じたのですが、位相補正後は印象がガラリと変わりました。まとまりが出て山水機に近づいた感じです。

6GA4だけなら位相補正をもっと少なくして明るい音作りをしたいところですが、6V6GTや6F6GTの時に大暴れするので、個性が無くなってしまいますが、挿し替えできる楽しさを優先にしました。それでも個性の強いH-5Sですので、タンゴサウンドと言うべきでしょうか。



球の挿し替えで特徴があったのは6F6GT+タンゴです。力があってジャズのウッドベースが面白いです。ひょっとしてDFが低い分、膨らんで感じているのかも知れません。

6V6GTは3機種どれに挿しても優等生です。室内楽やピアノトリオなども安心して聴いていられます。球の見た目とは裏腹に高性能です。

で、肝心の6GA4ですが昔の印象とだいぶ違いました。3極管シングルらしい暖かみのある音をイメージしていたのですが、思ったより現代的でクールです。そのため分解能の高さを感じ、楽器の細かい音もきっちり再生します。6RA8シングルの方が余程それっぽい音で豊潤な感じがします。

ここまではメインスピーカーでの印象ですが、本来の目的であるPCとデスクサイドのミニスピーカーに接続してみました。ローブーストはだいたい60Hz前後を中心にプラス6dB程度ですので、右にめいっぱい廻しても低音が出過ぎることは無く、程よくラウドネス的な効果を確認できました。

通常のトーンコントロールでしたら+12dB〜+20dBくらいの補正量はありますので、ほんとに気持ち程度ですが、小型スピーカーには効果てきめんです。

今回3台作ったことによってNFB+位相補正が個性を消してしまうと言うことが改めて解った感じです。無帰還の直熱3極管アンプが好まれるのはどうもこの辺に理由がありそうです。

もっとも個性が強いと音楽ソースを選んでしまうし、個性を抑えてアンプが裏方の道具として徹すれば、音楽を選ばないと言うことになりますから悪い事ではありませんが、趣味として考えるとどちらも悪くはありません。




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反省点と今後の改造など

前頁にも書きました通り、タンゴ機のトランス塗装に不満があり、文字印刷も少々薄くなってしまって仕上りに失敗したと感じているので、いずれ分解して作り直そうかと思っております。

その際、タンゴ機はせっかく位相補正前の現代的な音が良かったので、今後じゃじゃ馬H-5Sと格闘し、6GA4専用として細かいチューニングをしてみたい気もします。

全般ではスイッチ切替で6CA7や6L6GCなど他のオクタル8Pソケットの球も使えるようにするのも一考です。


6GA4が昭和中期の歪みが多い球だと良く解りましたので、前段をSRPPにするより通常のシングル2段増幅回路とし、綿密に高調波の打ち消しをした方が良いかも知れません。計3段増幅にすればゲインも充分でトーンコントロール並みのブースト変化量も確保できます。

また、今回所有していなかったので作れませんでしたが、タムラのF475やノグチトランスでもいずれ試してみたいと思います。


3台のリア

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