測定結果



入出力特性です。クリッピングポイントは1V入力時に約38W、そのまま入力を増せば70W近くまで出ています。しかしクリップ後の歪みは盛大に増すので、メーカー発表の30Wと言うのは控えめと思いますが妥当なセンです。 実測NFBは18.8dBで、ウィリアムソンタイプとしては少な目?な印象でした。高感度過ぎず、ゲインもほど良くて使いやすい入出力特性です。




歪率です。ウィリアムソンタイプの特徴が良く出ています。

定格出力内では一貫して低歪率ですが、30Wを超えたあたりから急激に歪みが増えます。つまり30W以内で使っている限り、低歪みのすっきりした音で楽しめますが、フルパワーに近い大音量で音楽を聴くと耳障りになる、と言うタイプです。

ソフトディストーションカーブの無帰還3極管シングルとは対照的な特性です。

しかしいつもフルパワーで音楽を聴いている方は少ないと思われますので、この特性がKMQ60の評価の良さにつながっていると思われます。
気になるのは左右チャンネルで全体的に歪率が違うことで、右チャンネルは若干ハムノイズを拾っているために歪率が低下しているようでした。

これは球の消耗具合などにもよりますが、左右シンメトリーなデザインの影響だと思われます。

右チャンネルは全体的に電源スイッチやACコードが近く、また入力が遠いので若干悪化する要因になっています。

とは言っても出力に対して全体的に低歪みですので不満になるようなものでは無さそうです。




出力1W時の周波数特性です。きっちりDCバランスの調整をしましたので低域は5Hzまでフラットです。これ以下は測定できますが誤差が大きくなるので信用しないことにしています。

高域はメーカー発表値に届いておらず、左チャンネルで-1dBの範囲は40kHzです(カタログ数値は60kHz)。
ここでも右チャンネルはレイアウトの影響が出ています。シールド線の長さなど静電容量の違いで左よりも高域低下を起こしており、可聴帯域外ですが100kHzで2倍もの差が出ています。

しかし位相補正が効いているせいもありますが、1MHzまでスイープしてみましたが多めのNFBにも関わらずピークが無く、OY15型アウトプットトランスの特性の良さを感じさせます。



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ダンピングファクターは左右とも可聴帯域内で11.4、残留雑音は0.1mV、これだけNFBが掛かっていても安定度は抜群です。 ずっとオシロの調子が悪くて波形が見せられないのが残念ですが、薄いCRTの画面にオーバーシュートやリンキングの無いキレイな波形が映っています。



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これがKMQ60の音?

なんだかこのKMQ60、音の響きがいいです。締まったベース音、前に出てくるボーカル、うるさ過ぎず心地よいシンバル。だいぶ前に聴いたウィリアムソンタイプと印象が違います。

これはウィリアムソンタイプと言うより50CA10+OY15型トランスの個性でしょうか。

締まった低域と言っても量感があるので色んなジャンルの音楽で使える感じです。中域の充実したトランスドライブのアンプが好みの方には馴染めないかも知れませんが、どんなソースにも対応できるフレキシビリティはありがたいアンプと感じました。

数値的には左右アンバランスな歪率や周波数特性なので、位相補正を綿密にすればもっと良くなると思いますが、聴感上今のままの音が気持ち良いので、いじらないことにしました。
レストア後の雑感

KMQ60は真空管消耗時代のスペック重視製品かと思いきや、案外スペックよりもデザインを優先したようなところもあり、興味深いです。

電源部を中心とした左右シンメトリーなデザインは一見理にかなっているようで案外性能が犠牲になるところがあります。例えば入力端子や出力端子は必ず左右どちらかに寄るため、左右チャンネルで配線の長さが変わります。見た目を重視したのでしょうか。

KMQ60では入力回路とアウトプットトランスが近いため、シールド板を付けて対処しています。さらに電源スイッチもパワー管のすぐ近くにあり、SN比低下の原因にもなります。

しかし一定のスペックを保っており、問題ないと判断してのデザインのようです。それよりも一番気になるのは発熱の多い50CA10の間隔が狭く、夏場の廃熱が心配なことかも知れません。




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