回路構成 このアンプ、探したら当時の回路図が残っていました。以後記憶をたどり、思い出しながら書いています。 ネット時代の現在と違い、簡単に球の資料が手に入らない時代でしたから、球屋で教えてもらった843の乏しい規格をたよりに設計をしました。 それによると843は直線性の良い送信管でEb425V、Ib25mA、Ec-35V、RL12kΩ時に定格出力は1.6Wとのことでした。 |
高圧・小電流・高負荷抵抗型の典型的な送信管規格で、シングルで使用するなら、もう少し出力トランスのインピーダンスは高めの方が良いだろうと、VT-62/801A製作用に買ってあったタンゴのFW-20-14Sを使うことにし、電源トランスはヒーター電圧2.5Vですので2A3用のMS-160を使うことに決めて各部の定数を決めていきました。 |
843はVT-73と言う軍用ナンバーが付けられていた。 シーメンス・テレフンケンなどのドイツ球の良さを初めて解ったアンプです。 |
増幅部 843のグリッド電圧は-35Vですから入力電圧は25Vrms程度で良いことになり、確かに電圧増幅は1段あれば充分です。 送信管の場合、そのままでは出力も小さいのでカソードフォロワー直結ドライブにしてグリッドをプラス領域まで振り、出力を倍増させるのが当時のトレンドと言うか常套手段でした。 このアンプは出力増大は考えてませんでしたが、低インピーダンス駆動を考えてカソードフォロワードライブにしました。 しかし送信管とは言え843は古典管、貴重なので大事に・・・と言う考えが頭をよぎり、計画当初は直結としていましたが、最終的にはカップリングコンデンサを入れてしまいました。その分、初段とカソードフォロワー段は直結とし、時定数を減らしました。 設計時の回路図と実機を照らし合わせてみたところ、NFBのかけ方が違っており、当時何を考えていたか思い出すのに少々掛かりました。 たぶん前段だけNFBを掛け、出力段はNFBを掛けないことでパワー管の個性を発揮させようと言う考えが流行っていたこともあり、このような設計にしたような気がします。 しかしパワーアンプで一番歪みを多く出すのはパワー段であり、前段だけ掛けてもあまり意味がなく、むしろ打ち消しを考えたらマイナーループよりもメジャーループにするべきと考え直して変更したと思います。 ECC81(12AT7)を使用して初段利得35dB、カソードフォロワーで-1dBとメモしてありました。 なにせ843に関する情報が前述のことしかなかったので、それに近い動作にしたはずですが、実機を解析してみると電圧配分が大きく違いました。当時どう考えていたのか思い出せません。 アウトプットトランスは前述のFW-20-14S、これは当時VT-62/801A用に開発されたタンゴの新製品で、他社には無い14kΩと言うハイインピーダンスで物理特性も良く、送信管御用達となりました。 | |
メモが残っていた回路図。実際には違った。NFBの掛け方が違う。ネオンランプのパイロットなんか付いていない。 実物を解析してみたところ、こちらが実際の回路。NFB以外にも計算で出した抵抗値が規格と合わないため、複数直列・並列を組み合わせていた。 | ||
電源部 じつはこのアンプ、初めてガス入り整流管と言うものを使いました。レイセオンのCK1006と言う球で、BHなど同社ではガス入り整流管の歴史が続いています。 843を買いに行った球屋に勧められて予備も含めて買ってみたのですが、見た目の面白さとレギュレーションの良さでこちらの方がメインになってしまいそうな存在感です。 もちろん使用法など知らず、教えて頂いたままの設計となりました。水銀蒸気整流管に準ずる使用法とし、プリヒートのあと高圧スイッチを入れるようにしました。 しかし後から解ったことですがフィラメントは温めるためでは無く、ガス入り整流管の場合、暗い場所では放電が不安定になるためフィラメントを先につけるらしいです。 そのため基本的には冷陰極放電管と同じ、すなわち高圧印火後はフィラメントを点灯させておく必要が無いのですが、オフにする必要があるとは言われておらず(書かれてもおらず)2段階スイッチ後はそのままにしています。 843はヒーター電圧に合わせてタンゴのMS-160を選びましたので、B電圧はそこから成り行きで決め、セルフバイアスにしましたので規格表より低い値です。電源回路自体はπ型フィルターだけのシンプルなものです。 今思えばECC81のH-K間耐圧を若干オーバーしていますので、ヒーターバイアスを追加するなどの対策が必要です。ECC81のヒーター巻線だけ独立していたのが幸いです。 |
レイセオンCK1006。ガスが光ると言うのは不思議なものです。青白いガス色からして、アルゴンガスが使用されているものと思う。 |
|
→ 使用パーツ |