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回路方式をコンセプトにするなんてナンセンスな話しですが、ムラード型の音をまた聞いてみたいと思ってしまったのですから、それは変えないことにします。

最初の計画ではEL34/6CA7で程々の出力を考えていましたから、初段管と位相反転管も色々な選択の余地がありました。

しかしKT88で高出力をとなると、バイアスが深く、カソードフォロワー直結ドライブによるAB2級動作が現実的です。

となるとドライバー段は12BH7Aや6240Gなどの高耐圧管、初段は12AX7Aなどでなるべくゲインを稼ぎ、位相反転には12AU7Aなどが考えられます。これはウィリアムソンタイプが流行った頃の教科書通りのような構成です。
  しかしパワー管挿し替え式に変更したため、大幅に構成を変えることにしました。
パワー管を挿し替える場合、どの球でも安定動作が大事で、規格違いによるバイアス電圧の深さにも対応する必要があるため、直結ドライブはやめることにしました。

カソードフォロワー直結ドライブは、一度調整すれば安定するハズ・・・ですが、実際にやってみるとドライバー管、パワー管どちらかの異常やエミッション低下で動作点が大きく狂い、苦労した経緯があります。

そこでシンプルに電圧増幅→位相反転→電力増幅→出力トランスと言う構成にし、その代わりにある程度の変更には対応できるようにしました。



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各パワー管の違いと最大定格


 EL34
6CA7
KT88
GEC
6L6GC
東芝
6GB8
東芝
ヒーター電圧
ヒーター電流
6.3V
1.5A
6.3V
1.6A
6.3V
0.9A
6.3V
1.5A
最大定格EL34
6CA7
KT886L6GC6GB8
プレート電圧800V600V500V800V
プレート損失25W35W30W35W
第2グリッド電圧425V
500V松下
600V450V440V
第2グリッド損失8W6W5W10W
カソード電流150mA---
H-K耐圧100V150V200V100V


松下6CA7

↑松下の6CA7が一番多い手持ち球なので、基準にすることにした。


ボリューム付近
  パワー段の動作

EL34/6CA7、KT88、6L6GCの3種類くらいは挿し替えできるように考えます。(6GB8、KT66、350Bも考えなくも無いですが・・・)

この場合、各動作電圧・電流は計画の一番小さい球に合わせる必要がありますが、調べていくうちに同じ球でも各メーカーによって規格がまちまちであることが解り、設計よりも規格調べで時間を費やしてしまいました。

とくにEL34/6CA7のスクリーングリッドの最大電圧が425Vと500Vとが発表されているものが悩みのタネになりました。

今回は5結/UL接続/3結の切替もできるよう考えていますので、3結ではプレート電圧=スクリーングリッド電圧ですので425V以上は掛けられないことになり、ハイパワーが望めないことになります。

参考までにメーカー製アンプを調べたところ、ラックスの6CA7使用のアンプは松下製を純正採用していますから、スクリーングリッド電圧を500Vまで使えると判断しているようで、480V程度に設定されています。

他にも6CA7現役当時の製品は真空管を消耗品と考えていたようで、規格ギリギリまたは多少オーバーした製品が多く存在していました。

6L6GCもスクリーングリッド電圧は最大450V、6GB8は大型のわりには440Vと低いので3結やUL接続では設計上のポイントになりそうです。

ここは最良点を見つけて妥協しないと進みませんから、このアンプも手持ちの松下製6CA7を基準に考えることとし、パワートランスとの兼ね合いもあって、プレートとスクリーングリッド電圧を460V近辺にすることにしました。

この電圧では6L6GCや6GB8のスクリーングリッド電圧を少しオーバーすることになりますが、許容電圧の2〜4%程度のオーバーであれば、損失いっぱいに使わない限り、それほど寿命に問題ないと判断しました。

この他にも調べていくと細かい差違に気が付きました。今までちゃんと比較していなかったものにピン接続があります。

各球によって1番ピンの使い方が違い、EL34/6CA7ではサプレッサグリッドが割り当てられていますからカソード繋ぎますが、その場合KT88に挿し替えるとベースのシールドに割り当てられていますので、シールドはアースから電位が浮いています。

このアンプは固定バイアスですので電流検出用抵抗10Ωの分しか電位が浮きませんので問題ありませんが、自己バイアスの時は注意が必要です。

アウトプットトランスはハイパワーにも耐えられるようタンゴのFW-100-5を使います。プレート電圧が低い場合、球によっては5kΩの負荷では重い場合があり、3.5kΩのFW-100-3.5と悩みましたが、球の安全性を考えると5kΩ採用となりました。

バイアスは固定バイアスとし、KT88の深いバイアスからEL34/6CA7の浅いバイアスまで対応できるようにします。また、ペアチューブが無い場合でも使えるよう、DCバランスも調整式にします。



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初段と位相反転段

このアンプは最初、ボリュームのガリが出ないよう、コンデンサーを入れてバリオームにバイアスの直流が流れないようにしていました。メーカー製のアンプはほとんどこの構成になっています。

しかし実際に組み上がってみるとボリューム最大付近で少しですが飛びつきによるノイズが発生してしまいました。ウラ板を取り付ければそれほど問題ないものの、少しでもSNを良くしたいのでシールド板を追加したりしましたが、根本的な解決にはならず、デザイン重視のレイアウトが徒となっています。

仕方なく、コンデンサーと470kΩを撤去し、VRから6267/EF86のグリッドへ最短配線するように変更しました。

ムラード型位相反転はゲインがありますから、初段の動作は軽くできます。実はここにも2年間の迷いが現れており、迷ったがゆえ6267/EF86を使うことになりました。

構想中にKT88によるハイパワーも考えていましたから、その場合深いバイアスが必要、ゆえに大きなドライブ電圧も必要、と言うことでゲインの大きくとれる球を候補にします。

しかしまたパワー管の変更で出力もほどほどに考えましたので、それほどゲインが必要無くなってきました。また気が変わる可能性があるので6267/EF86をチョイスし、ゲインが必要なら5結のまま、そうで無ければ3結にし、ゲインを調整しようと考えました。

6267/EF86は独特のスプリングマイカ、管内シールドやバイファイラ巻きのヒーターなどHi-Fi用に多くの近代技術を採用しており低ノイズ、とくにマイクロホニックノイズに有利で、初段に使った場合、高ゲインでもかなり良い特性が得られます。

位相反転は最初の予定通りムラード型カソード結合タイプで、ここも方針変更する可能性を考えて高耐圧で位相反転御用達の12BH7Aにしました。手持ちがたくさんあり、何かあった場合挿し替えられることもチョイスした理由です。

通常のムラード型は上下の増幅率アンバランス補正のためプレート抵抗を若干下の方を多くしますが、現在は定電流ダイオード(CRD)なんて便利なものがありますから、これを使用し、かなりアンバランスが吸収されるため、上下同じ値としました。

これは一種の差動回路ですので、変形ムラード型と言った方が正しいでしょうか。

しかしこのCRD、実際に使ってみるとかなり熱の影響を受けやすく、実装に手を焼きました。

最短距離配線をしようと12BH7Aのソケットに直付けしますと、温度上昇とともに電流が見る見る減り、20%近くも電流減となったため、22kΩよりアース側に変更し、ラグ板で放熱ができるように配線し直しました。温度に対してかなりクリティカルに電流値が変わります。

CRDを入れず24kΩの共通カソード抵抗を入れた回路と比べてみましたが、音的にもそれほどメリットが感じられず、各測定値や波形もほとんど変わらないため、ひょっとしたら後で抵抗のみに変更するかも知れません。


  入力回路

入力改造前

↑右下の方に入力コンデンサー(オレンジドロップ)が付いている。まだ調整段階でダンボール養生中


入力改造後

↑入力コンデンサーを撤去した後





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電源部

計画変更で大きく変わったのは電源トランスです。まずは必要な電圧・電流容量からタンゴ・ST-350を考えていましたが、デザイン上アウトプットトランスと合わせたくなり、MS-450Dにしました。

その後、ハイパワー計画によりB電圧がもっと高い必要がありMS-380Dに変更、さらに挿し替え式にしたため再度MS-450Dに変更、最終的にデザイン変更によりカドR付きのMS-450DRに変更と言う大変更オンパレードでした。

合わせてチョークもMC-3-350DとMC-1.5-500Dを用意し、迷いに迷いました。

π型フィルター部はハイパワー計画の時にケミコン2段重ねで高圧対応し、挿し替え式に変更しても再変更時に対応できるよう、そのまま残しました。球を挿さずに電圧確認する時、B電圧は500Vを超えますが2段重ねにより安全です。

また、ケミコン2段重ね時の上下に掛かる電圧アンバランスでケミコン破損防止と、電源オフ時の速やかな放電のため、ブリーダー抵抗を入れています。
  ヒーター巻線が3つありますので、パワー管の左、パワー管の右、前段と言うように分けるのが普通ですが、本機では初段+パワー管を左右で分け、残りの1つを両チャンネルの位相反転段にしました。

チャンネルセパレーションを考えると通常はやらないと思いますが、この分けかたには2つの理由があります。

ひとつはアースからかなり電圧が浮いている位相反転段にきっちりヒーターバイアスを掛け、ノイズを少しでも減らして電源オン時のヒーターフラッシュを避けるためと、もうひとつは初段+パワー段の方の巻線にきっちり許容電流近くの電流を流してヒーター電圧を規定値近くにしたいためです。

電源トランスは余裕を持つとレギュレーションは良いですが、電圧が結構高めに出ますので、電流変動のないヒーター巻線に限って電圧が規定値になるようにしました。

バイアス用のC電源はブリッジ整流にする必要はありませんが、ハイパワー時にバイアスを深くするため倍電圧整流にしていましたが元に戻し、いつでも配線だけの変更で対応できるよう予めダイオードの数をシャーシー内に入れておきたいと言う理由からです。

差替式プッシュプルアンプ・最終回路図

黒字=設計値、緑字赤字=実測値
温度は放射温度計での計測のため、コア部の最高温度を示しており、実際には10℃以上表面は低く、触ってもヤケドしない程度です。


→ シャーシー設計と使用部品