↑ 6Z-E1をテストしているところ。



↑ 輝度の低下したマジックアイ、TOYOの6E5。




 

事前テスト


まず、マジックアイの静特性を調べるところから始めます。

簡易的に電圧増幅回路を構成し、細かいデータを取ることにしました。プレートやバイアス電圧を色々変えて増幅率や歪率などを測定した結果、マジックアイのエミッションによってかなりのバラつきがあることが解りました。

結構時間が掛かりますが手持ちの中古マジックアイを約10本ほど測定し、ほとんど光らないヒドイ消耗したものは増幅率も5程度まで落ちていますが、最高のものは約18あり、半分位の輝度のあるものなら15程度は確保できそうです。

確かに増幅率で見れば27よりも76に近い数値ですが、歪みの出方はだいぶ異なっていました。

また、マジックアイはチューブチェッカーで測定すると明るい新品でもエミ減だったり相当暗くても相当エミッションの高いモノなど、かなり広範囲に分布し、元々インジケーターなのでエミッションは重視して作られていないことが解りました。

これは増幅に使うには少々やっかいです。また、アンプ完成後に問題が発覚した事実もありました。これは後述します。

もうひとつ、検証すべき点があります。ターゲットの扱いです。インジケーターとして使用する場合はターゲットに高圧を掛け、プレートは高抵抗で相当電圧が低くなっています。

おそらくプレートには高圧を掛けても大丈夫でしょうがターゲットをアースに落とすのは、TA-P間耐圧が気になって気が引けます。H-K間耐圧みたいなもんです。でも6AV6などをアンプとしてのみ使用する場合は、ノイズ防止の観点から通常2極部のプレートをアースに落とします。

なのでターゲットをオープンで使った方が良いのか、プレートよりも高圧を掛けるべきか、プレートと同電位にするか、耐圧は気になるが使用しない電極はEに落とした方が良いのか、4つも方法があります。これは1本ダメにするつもりでテストします。

結論から先に申しますと単独実験の場合に限り、ターゲットはオープンで使った時が一番増幅率が大きくなり、プレートと同電位では13%ほど落ちる結果となりました。

また、バイアスを変えると増幅率や歪率など、大きく変わりますが、Ebbを100V〜300Vと大きく変えても大して増幅率は変わりませんでした。

今回ほどカーブトレーサーが欲しいと思ったことはありません。高価なのでいずれ・・・と思っていましたが、未知の球では強い味方になります。


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パワー管の選択


今回はマジックアイのテスト次第でパワー管を決めようと思ってましたので、供給電圧と増幅率が解れば候補は絞られてきます。

とにかくあるモノを使ってローコストでと思ってましたので、高感度な水平偏向出力管を使うことにしました。

しかしこちらも規格表の特性曲線を見ると負荷を相当低く取り低電圧大電流となるOTLに向いており、とてもシングルでオーディオ用に使えるように思えません。歪も相当多そうです。

使うとしたら歪みが相殺できるプッシュプルにするべき球です。本来は6V6や6CA7などを選択した方がラクに設計しやすいと思います。

また、挿し替えを考えた場合、12G-B3だけがプレート損失11Wと、14W以上ある6G-B3Aなどより小さいため出力も期待できず、こんな使いにくい球を使いたかるオーディオマニアはいないだろうと思われます。

でもここはいつもの本末転倒具合を発揮し、ローコスト重視でムリヤリ使うことにしました。しかも一番プレート損失の小さい12G-B3に合わせ、さらに電源トランスの容量を考えるとムリがありますが、B電流も抑え気味にします。

調べてみると電源トランスのB電流が100mAを超えるととたんにコストアップすることが解り、そのヘンの事情を酌んで決めて行きました。

しかし右図のロードラインでアンプを作るヤツの気が知れないと言われそうですが、実はシミュレーターの結果が思ったより良かったので、行動に移すことにしました。

なぜそうなるのか私も説明できないのですが、実際中出力までは思っていたよりかなり良い歪率になりました。

確かにスクリーン電圧も違うし、特性曲線は大雑把ですので、細かいところまでは見えませんが、これなら行ける、となったワケです。

  出力管の最大定格

 6GB3A12GB36GB712GB7
 
Base
Octal
8P
規格表では1, 3番ピンはICとあるが実物はピンがない
Eh/Ih6.3V/1.2A12.6V/0.6A6.3V/1.2A12.6V/0.6A
WarmUp---11sec---11sec
最大定格
Eb600V600V770V770V
Ploss14W11W16.5W16.5W
Ec2220V220V275V275V
C2loss5.5W5.5W5.5W5.5W
Ti220℃220℃220℃220℃
Rg1500kΩ500kΩ1MΩ1MΩ
Eh-k+220V
−100V
+220V
−100V
+220V
−100V
+220V
−100V

12GB3のEp-Ip曲線

6GB3A/12GB3と6GB7/12GB7の真空管規格表のグラフは、まったく同じモノをコピーしたものと思われる。スキャンして重ねてみるとまったく同じであった。なお25E5も同じ。しかし立ち上がりの部分がバラバラって・・・




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全体の回路


今回はなるべく中古や長期在庫の新古パーツを使用しコストを抑えますので、回路はできるだけシンプルな2段構成シングルにしようとは思っていました。

但しマジックアイと水平偏向出力管の組み合わせでは、初段の増幅率が低く、パワー段は歪が多いから3結にしたいがゲイン不足、しかも多めにNFBを掛けたいがこれも厳しい、SG電圧が低い水平偏向出力管のため3結やULにできない、など制約が多いです。

計算上は高感度のパワー管なら低ゲインのマジックアイでもドライブできるハズですが、ゲインをNFBに回せないし実際に作ってみると思ったより低感度で不満であることが多いので、念のためドライブ段は2段にすることも念頭に置いて考えてみました。

また、SG電圧の少しの変動でもプレート電流が大きく変わり、12GB3の時にプレート損失オーバーにならないよう定電圧放電管0B2/VR105MTを入れてSG電圧を安定させることにしました。ジツはこの選択が雑誌にはメッ、となったワケです。

私は定電圧放電管も大量に在庫しているので気楽に考えましたが、調べてみると新品を買うとなると1本2,000円前後と結構高価でした。

しかも定電圧放電管は結構バラ付きがあって、数本テストしてみると放電開始電圧、安定電圧ともに結構違います。決まればビシっとSG電圧が安定するのですが。

もうひとつ欠点として放電開始電圧になった時、それほど大きくはありませんが、スピーカーからブツっとノイズが出ます。確かにこれではオススメしにくいです。

次にすごく多そうな歪みを何とかしないといけません。ゲインに余裕がないため多量のNFBは掛けられません。当然安定度も気になります。

今回は出力段の歪みが大幅に多いワケですから、そこだけ多めにNFBを掛ければよいことになり、オーバーオールと併用してP-G局部帰還も掛けるMLF(マルチループフィードバック)にすることにしました。

これなら中程度のNF量でも何とかなるかも知れません。

 

 


電源部はシンプルなπ型フィルターです。実は最近これが一番重要だと思い知りました。

と言うのは当HPに掲載していないアンプも実は作っており、その時に初めてモーターボーディングと言うモノを経験しました。

当然原因究明に多くの時間をさき、消し去ることには成功しましたが完全に原因を特定できませんでした。

推測ですが、気合を入れて複数段のフィルターにすると出やすく、シンプルなフィルターにして電源インピーダンスを低く抑える、電源部フィルターもスタガー比を取る、などが重要なようです。

ヒーター部は今回も巧みに巻線を組み合わせを変えて6.3V管と12.6V管を使えるようにしました。

整流管にダンパ管の6GK17を使用しましたが、ヒーター電流がヘンです。12GK17は12.6V/0.6Aなので6GK17は6.3V/1.2Aになりそうなもんですが、なぜか1.3Aです。これ、弐号機では問題になりました。

ヒーター巻線に余裕があれば12GK17を使いたかったのですが、今回はないので見送りました。



↑ ナットクの行かないヒーター電流の6GK17。


すみませんが雑誌掲載アンプと近い回路なので数ヶ月間、回路図掲載を見送ります。

黒字青字=設計値、緑字赤字=実測値


→ シャーシー設計と使用部品