OutlineOTLアンプが欲しいと思ってからかなりの年月が経っており、実はこのアンプを作る以前にも他人の作ったOTLアンプを4台も修理・改造などして使っておりました。 修理・改造と言うのは、OTL経験者ならご存知と思いますが、しっかり&たまに調整しないとイケナイ問題や、熱暴走によるパワー管の破損など、作りっぱなしで使い続けられなかったり、そもそも設計からムリがあって音が思わしくなかったモノなど、マトモに使い続けられるアンプが1つもありませんでした。 しかしそのようなリスクを背負ってでもOTLアンプに魅力があるのは、ひとえに音の透明度が抜群だからです。 さらに本機で解ったことですが、電源トランスやチョークもやめて完全トランスレスにすると音のクリアさはひとしおで、通常のトランス付きアンプとは違った魅力に取りつかれます。 そこでOTLの問題点を洗い出し確認するため、本機を試作することにしました。(10年以上前に) なお、10年以上もほったらかしたりいじくり回したりしていると時代錯誤に陥り、説明順序もとっちらかって前後していますが、ご容赦ください。 25E5 Ep-Ip特性(Ec2=170V時) 松下の図(黒)に日立の図(紫)を重ねている 当時SG電圧が170V時の特性図しか無いと思っていたため、参考程度にしていた。後から複数見つけて松下の図に日立の図のスケールを合わせて重ねてみると結構違うので、どうしたものか迷った。特にEc1=-5Vのラインは完全にずれている。(目盛りのピッチは元々違う) SG電圧が違うのでカットオフも何Vになるか解らないが、これは成り行きで完成してからオシロの波形を見ながら決めることにした。実際にはクロスオーバー歪が大きくなるので限りなくB級に近いAB級になると思う。 25E5 Ep-Ip特性(Ec2=230V時) 最近になって見つけたSG電圧230Vの特性図。実際にはこっちのグラフに近い動作をしているハズ。(でも調整・測定してみると違った)青いロードラインは8Ω時。
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設計のコンセプトまず、問題点を全て洗い出し、1つづつどうするか決めて行きました。 ●熱暴走問題 他の方のアンプを解析・修理等をしてみて解ったことは、OTLアンプは出力を稼ぐためにパワー管をほとんどパラレルにしている、と言うことです。 ところがパラにしていることが案外問題で、少しでも内部抵抗の低い球の方へ電流がだんだん集中してしまい、最後に暴走する、と言うことが解りました。 とくに6AS7Gなど6080系の球はその傾向が強く、暴走族として有名です。どうも多少の保護回路を入れたところで完全にメンテナンスフリーとはいかないようです。 そこで試作である本機では出力は少なくても良いため、パラにしないことにしました。 ●発熱問題 よくOTLアンプは相当発熱するのでファンを内蔵しているアンプを見かけます。せっかくトランスを排除するのですから、磁界の発生するファンも搭載したくはありません。 これはシャーシー内部に発熱の大きいパーツを使わない、つまり設計段階から発熱しないようディレーティング注意します。幸いパラにしないのでパワー管の本数も少なく、熱問題には有利になります。 ●完全トランスレス化 電源トランスがあれば電圧は自由得られますが、電流は制限を受けます。逆に電源トランスがなければ作れる電圧に制限が生まれますが電流は自由になり、B級動作で電流変動の大きいOTL向きです。 また、完全に磁界の発生するトランスを排除したくなり、電源トランスレス(Power Transformer Less・略してPTL)にすることにしました。 ま、それは理想論で単純には行かず、アースの問題やどうやって必要な電圧を作り出すか苦労することになります。 今回は出力成り行きの試作なので、パワー管は手持ちの関係もあって25E5にします。それでヒーター電圧は25V×4=100Vでクリア、ドライブ回路のヒーターは長年死蔵していたAC-DCコンバーターを使うことにしました。 ●B電圧の供給方法 通常、多極管SEPP-OTLの場合、内部抵抗を低くするため3結にするのが一般的ですが、25E5は3結にせず5結のまま使い、SG電圧をP電圧より高く取って電流が流れやすくします。 このやり方、相当昔に誰だかやっていたのを覚えていたのですが、最近(と言っても数年前)では金田明彦氏が発表しておりました。 ●出力端子のDC漏れ 電源トランスがあれば出力端子の非接地化でDC漏れが防げますが、PTLにするとそれができません。できれば大容量のケミコンを出力端子に入れたくなく、実験アンプなので大げさな保護回路も避けたいところです。 本機ではバイアス調整範囲を大きくとり、さらに多回転トリマーで細かい調整ができ、完全ではありませんがしっかり0Vにできるようにして保護回路を省略しました。実験機なのでこれで様子を見ます。 ●打ち消し電圧の注入方法 当初はドライバー段のB電圧供給部・負荷抵抗を分割してブートストラップによる打ち消しをしていましたが、何度か改造している時に差動回路による平衡ドライブしているので不要では?と思い、排除しました。 よく考えるとブートストラップによるPFBを掛け、NFBを深くするってムダじゃ?と思い、それならPFB分だけNFBを軽くすればどうなる?と言うワケで、改造・測定してみると、出力や歪率を見てもそれで良いようです。 ●肝心の信号回路 10年以上も前のことなのでうろ覚えですが、当初のドライブ回路ではゲインが足りず、FETによる初段を差動回路で追加、それに合わせてドライバー段も12AU7による差動増幅とし、何とか辻褄を合わせたと思います。 1段ドライブの時はもっとμの大きい12AX7等を使っていたような気がします。1段追加する時にスペースが厳しいのと、今さらシャーシー加工して球のソケットを増やすのもはばかられたので、他の工作で余った手持ちのFETを選別してペア取りしました。 パワー段は25E5・5極管接続によるSEPPで、プレート電圧は商用電源100Vから半波整流して作り出した電圧を供給し、スクリーングリッドは半波倍電圧整流から供給した倍の電圧を与えます。プラスマイナス両電源を作り出して出力はOCLとしています。 ●その他 PTLでは感電防止のため全て半波整流にしないといけません。そのため相当リップルが心配です。本機ではケミコンだけでなく、コンプリのTrでプラスマイナス両電源を組みました。 また、大容量ケミコンにより大きなラッシュカレントも発生しますが、実験機と言うこともあってディレー回路は使わず、単純に手動で電源スイッチを2段階にしました。 1秒でも遅くして高圧スイッチを入れればOKで、これでも結構効果ありました。1度、間違えて高圧スイッチをONのまま電源ONしたところ、一瞬抵抗から煙が出て焦げてしまいました。要注意です。 感電防止はネオン球によるラインフェーズセンサーも搭載し、接点に触れてうっすら点灯すれば正極、点灯しなければ逆極と解ります。 |
→ 使用部品とレイアウト概要 |