Outlineかなり前に入手したPX25を死蔵しておくのはモッタイナイと常々思っていましたが、高価な古典球ゆえになかなか具体的な計画に持ち込めず、結局数十年経ってしまいました。年齢的なことを考えるとそろそろ作らねば、と重い腰を上げる決心をし、当初はPX25だけのアンプを作るつもりでいましたが、興味本位で買った山本音響工芸のUX-UF両用ソケットを見て考えが変わりました。 きっと設計は狭い間隔でコンマ数ミリ単位で詰めて行き、やっと両方搭載することが出来たんだろうな、と思いを馳せながら、これを使わない手はないと言うことで、挿し替えアンプにすることにしました。 そんなこんなでこのアンプも本末転倒具合満載のアンプとなってしまいました。 あくまでもPX25をメインで考え、300Bをサブにすると言う前代未聞の理由ですが、300Bは世界的人気ゆえ、WEの高価な物から共産圏の安価なものまで昔と違っていくらでも手に入ります。 価格からするとWE300Bの方がPX25より高価ですが、絶対数を考えたら明らかにPX25の方が現存数は少ないと思われます。 なのでPX25を大事に扱うつもりで(だからと言って300Bを雑に扱うと言うことではなく)メインで考えました。 しかし良く考えると待てよ?、入力感度や規模を考えたらPX25の挿し替えにするなら300Bではなく2A3の方が近いハズ? となり2A3も使えるようにし、さらに考えたら設計上は一番ドライブ電圧が必要な300Bに合わせる必要があり、結局は300Bをドライブできることをメインで考えざるを得なくなりました。 |
↑やっと日の目を見たPX25。DO24とは書いてない。 軍箱にはMullardと書いてあったが本当だろうか。 |
電圧増幅管の代表規格
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初段+ドライブ段アンプを計画する際、通常パワー管から決めますので、出力段から説明する方が多いと思います。今回はドライブ段に特徴がありますので先に説明します。PX25単体のアンプでしたらある程度の増幅率のあるドライブ段1段でも可能です。しかし300Bや2A3も使えるようにするとなると、1段では少々厳しくなります。 WE-91アンプを模範としたWE310Bによる1段ドライブのアンプはマニアの間でも人気が高く、かなり作られていますので実績はありますが、現在の音楽ソースに合ったHi-Fiを目指した場合、オール3極管による低インピーダンスドライブがしたくなります。 当初はPX25をメインで考えていましたので、ここは同じヨーロッパ系のML4/6を使いたいと思っておりました。 となるとゲインを考えると2段ドライブ必須となります。ドライバーにML4またはML6を決めてから全体のゲインから逆算して初段は12AU7のパラ接続にすることにしました。 ここはパラにせずともゲインは十分ですが、チャンネルセパレーションを犠牲にしたくないため12AU7を左右で兼用することは避け、さらに低インピーダンスドライブを徹底するためと言う理由によるものです。 しかしここも良く考えると12AU7をパラにするとML4/6よりプレート損失が大きくなり、順序としては本末転倒です。性格的に、ま、いいか、と。 初段とドライバー段は当初は通常のCR結合で考えていましたが、NFBを切換え式で掛けることにしましたので、時定数を減らして安定性向上のため直結に設計し直しました。 さらに今回は古典管ですので出来るだけグリッド抵抗を下げて安定度を上げる目的で、チョークドライブを構想段階から考えていました。 まずはフラットな特性が得られ易いドライブ段のプレートチョークで設計し、音質的に自信が無かったため、後からグリッドチョークやトランスドライブにも変更できるように同じサイズの豊富なチョーク(トランス)を選びました。 なお、ヒーター電圧だけ変えればML4とML6は使えますので、せっかくですからこれも差換え式にします。 |
出力管の代表規格
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出力段出力管を差し換える場合、ある程度の妥協は必要なので今回は各管の少し内輪な動作をシミュレートし、プレート電圧やバイアス電圧を先に決めて、動作曲線は結果的に後から決まったものとしました。この方法でないといつまで経っても悩み続けて設計が終わりません。さらに一定の条件で一応DA30、PX4、50、45あたりの古典管も使えないかと、念のため動作を検討しましたが今回は見送りました。 まずは50ですが、本機ではプレート(またはグリッド)チョークドライブなのでグリッド抵抗の制限値はクリアしようと思えば可能、ドライブ電圧も余裕がありますが、フィラメント電圧で脱落しました。これは電源トランス次第です。 次にDA30です。こちらの方がドライブ電圧が厳しいです。グリッドバイアスも-134Vとこれほど深くなるとセルフバイアスで他の球との差が大きすぎて電圧配分がうまく行かず、候補から外しました。 PX4と45は逆に規格的に小さすぎてドライブ電圧、プレート電圧とも他に合わせるのが大変です。本来は電源トランスを特注するなどして合わせたいところですが、端子数が多すぎるなどで特注もムリでした。 実は2A3も同様に300Bに合わせるとムダが多くて厳しかったのですが、何度もロードラインを引き直して可能となりました。RLが3.5kΩのアウトプットトランスを使うため、少し高めのプレート電圧でもプレート損失内に収まります。 実際の回路ですが、プレートチョークドライブによりパワー管のグリッド抵抗も小さく出来ますので、古典管のグリッド抵抗に起因する暴走も防ぐことができます。 但しそのためにカップリングコンデンサーを大きくしないと低域特性が悪くなりますので、本機では4.7uFと大きくしてカットオフ周波数を0.7Hz前後とし、充分な帯域を確保しました。 バイアスはセルフバイアスとし、さすがに単独値では差し換えが厳しいのでハイ/ロー切換え式としました。通常300Bと2A3ではバイアスを深くし、PX25では浅くします。 また、ハムバランサーは細かい調整ができるよう10Ωのバリオームを20Ωの抵抗2本で挟む形としました。 |
↑本機の300B動作条件 ↑本機の2A3動作条件 |
↑本機のPX25動作条件 各動作曲線はWestern Electric(300B)、OSRAM(PX25)、RCA/Cunningham(2A3)のグラフデータをトレースしたものなので、見にくいですが比率がバラバラのままです。 また、プレート損失境界線は全て旧型管の規格です。 |
動作条件組合せ表
PX25=Mullard、300B=Western Electric、2A3=Marconiで測定、ドライバー管はとくに標記無しの場合MarconiのML6で測定。全てLchの実測値。 注1:CK1006使用の場合、フィラメントはOFFで測定。 注2:オーバーロードのため使用不可、参考データ。但しプレート損失が拡大されたSOVTEKなどの現代2A3は使用可。 注3:Ebbはプレート---アース間の電圧測定値。本来のアウトプットトランスの1次側を含めた供給電圧ではない。 注4:274Aと5Z3はほとんど電圧が変わらなかった(2V以内)のため掲載せず。 |
電源部差換え式アンプの場合、各球に合あった電源トランスを探すのが最大の作業となります。理由は後述しますが特注がムリなので、一番動作条件に近い旧タンゴのMS-200CT-Aを使うことにし、あとは成り行きでプレート電圧等を決めることにしました。今回も整流管を83、CK1006、5Z3、274Aの差換え式にしますが、2A3ロフチンホワイトの時と目的が違い、パワー管差し換えによるB電圧調整を整流管で対応させるために採用しました。 300BやPX25には効率良く電圧を与えるため83やCK1006を使い、2A3には過剰電圧にならないよう5Z3や274Aに差し換えることで電圧を調整します。 フィラメント電圧は4Vと5Vの端子があり、PX25と300Bでは交流点火の場合そのまま差し換えで問題ありません。 現在は電圧ドロップの小さいショットキーバリアダイオードのブリッジがありますから、直流点火も若干電圧が低いですがそのまま使えます。 2A3だけは端子が無いのでセメント抵抗で電圧ドロップをさせます。その際、直流にも対応するため2段階の電圧を設定しました。 ドライバー段もML4とML6の切換えをしますが、こちらは少々禁じ手を使いました。MS-200CT-Aはドライバー管にWE310Bが使えるよう10V端子があり、ML4時はそれを利用して6.3V-10V間から3.7Vを取り出すことにしました。 本来トランスメーカーは0V端子を使わないこのような使い方を推奨しません(本来は禁止)が、私はドロッパー抵抗による発熱を異常に嫌うため、それほど取り出す電流が多くないこともあってこのようにしました。 もしテストしてみてトランスの発熱が大きいようでしたら中止してドロッパー抵抗に変更することにしました。 ドライバー段のB電圧はパワー管を差し換えても変わらないように本来は別電源としたいところですが、シリコンダイオードにせず、整流管の電源を使いたいがスペースがないため、結局パワー管と同じ流れから取ることにました。 回路図と動作条件組合せ表には載せていませんが、どんな組合せでも最大50%以内のプレート損失(全測定済み)ですので余裕を持った動作です。 |
↑レイセオンのCK1006。 製造時期によってプリントは2種類ある もう1つ電源部には新たな試みを入れました。以前から気にしているガス入り整流管CK1006の寿命ですが、使用頻度がそれほど多くないとは言え、30数年前に買った一番最初のものが未だに寿命に到達せず使えています。 843シングルで使用後、2A3シングルに持って来て使用、同一球を使い回して寿命を確認しようとしていますが、思ったより長く使えており、当初未知数だったガス入り整流管の使い方が間違っていなかったと断言しても良さそうです。 843でも2A3でも先にプリヒートし、約1分後に高圧を掛け、そのままフィラメントを点けたまま使っていましたが、規格表にはフィラメントのオン/オフの2種類の規格が載っていますので、本機ではプリヒート後、B電圧投入後にフィラメントをオフにできる仕掛けにしました。(オンのままもできる) どうも83などの水銀蒸気整流管ほど神経質になる必要はないようですが、1本だけ人柱になりダメになることを覚悟し、プリヒートせずに高圧をオンにすると、何度か激しくスパークして不安定な高圧出力になります。やはり数秒で構いませんのでプリヒートはした方が良いようです。 |
黒字・青字=設計値、緑字・赤字=実測値 回路図はPX25、ML6、83使用、B電圧=High、Bias=Lowに設定時の数値(回路No.14) |
→ シャーシー設計と使用部品 |