今回は未調整なので未完成です。どうにも時間がとれないため未調整のまま測定しましたので、結果に「これはちょっと・・・」と思うところがあるかも知れませんが、ご了承願います。 いずれ時間を掛けて調整しましたら、改造と言う形で公開したいと思います。 パワー管差換え式のアンプを作るとどうしても測定で時間が掛かるのと、グラフが煩雑になって見にくくなります。 今回はそれにも増してスイッチ設定やドライバー管、整流管まで差換え式で組合せが相当あるので、一定条件のパターンのみ掲載することにしました。 PX25、300Bは整流管を最大電圧になる83と最小電圧になる5Z3で測定、2A3は5Z3のみで、CK1006はその間になるため測定はしましたが掲載は煩雑さを避けて見合わせました。 |
NFBは0dB、-3dB、-6dBとスイッチ切換えできますが、無帰還の0dBと一番深く掛かる-6dBのみ測定しています。-3dBはだいたいその中間の測定値になることが予想できるため省略しました。 スイッチ設定は動作条件から想定した組合せのみ測定し、そのうち重要な半分のみ掲載しました。 動作条件組合せ表で回路No.が飛んでいるのは、掲載以外の条件でも測定しているためです。 同じ球名で他メーカーとの違い(WE300BとCetron300Bなど)ではほぼ同じような電圧配分になり、メーカーよりも個別にエミッションの状態の方が各測定結果の違いが大きくなるため、メーカーの違いは参考にならず省略しました。 但しビンテージ球(RCA2A3など)と規格が拡大された現代球(SOVTEC2A3など)では結果が結構変わると思われますが、持ち合わせていないため掲載できません。いずれ機会がありましたら加筆します。 |
動作条件組合せ表(再掲)
PX25=Mullard、300B=Western Electric、2A3=Marconiで測定、ドライバー管はとくに標記無しの場合MarconiのML6で測定。全てLchの実測値。 注1:CK1006使用の場合、フィラメントはOFFで測定。 注2:オーバーロードのため使用不可、参考データ。但しプレート損失が拡大されたSOVTEKなどの現代2A3は使用可。 注3:Ebbはプレート---アース間の電圧測定値。本来のアウトプットトランスの1次側を含めた供給電圧ではない。 注4:274Aと5Z3はほとんど電圧が変わらなかった(2V以内)のため掲載せず。 |
図1:5Z3使用時の各パワー管の入出力比較図2:83使用時のPX25と300Bの入出力比較 |
図1は全て左チャンネルの入出力特性です。整流管に5Z3を挿していますので300Bには軽い動作です。 PX25は入力感度が高いため飛び抜けて曲線が左に寄っています。またゲインも高いのでNFB-6dBと書いてありますが実測は-8.9dBほど掛かっています。(PX25のみ) クリッピングポイントは無帰還で入力0.2V時5.35W、NFB-6dBを掛けると入力0.4V時4.06Wでした。整流管が5Z3の時は軽い動作になるため出力は小さいです。 300Bは無帰還で入力0.4V時7.3W、NFB-6dBを掛けると入力0.7V時6.7W、2A3は無帰還で入力0.3V時5.0W、NFB-6dBを掛けると入力0.5V時4.0Wあたりです。いずれもクリッピングポイントがはっきりせず、これ以上も入力を入れればどんどん出力は出ちゃいますが、ほどほどに使うのが良さそうです。 面白いのは300Bと2A3のカーブがほとんど重なっているところです。これは挿し換えてもボリュームが変わらず、違和感なく使えると言うことになります。さすがに300Bの方がプレート損失51.7%と相当軽い動作でも最大出力は飛び抜けて増えています。 図2は整流管に83を使用した時の入出力特性です。PX25と300Bは83の時に本領発揮となります。 クリッピングポイントはPX25の無帰還で入力0.2V時7.2W、NFB-6dBを掛けると入力0.6V時7.8W、300Bは無帰還で入力0.4V時8.0W、NFB-6dBを掛けると入力1V時10.4Wあたりまでパワーアップしました。 B電圧スイッチや整流管の挿し換えでプレート電圧が選べるので自在にパワーをコントロールできて便利かも知れません。 |
全体的に歪率は並、と言うか少し多めです。昔の現役時代そのままのアンプのようです。 どうも思ったよりドライバー段の歪みが少なくて打ち消し効果が低く、もう少し動作点を変えて調整したいポイントです。(でも音が悪いかと言うとそうでもなく・・・) 実は測定値掲載をLチャンネルで統一しているため、掲載していないRチャンネルの小出力時はLチャンネルより歪率がかなり悪くなっています。(300Bの0.01Wで0.6%程度) これは前述のようにハムが出てしまったためです。それを勘案してご覧下さい。まあパワー管を挿し換えた時の傾向は解ると思います。 なお全てフィラメントはDC点火の時です。 まずはPX25+5Z3の歪率です。(図3) 入力感度、ゲインの高いPX25にこのドライブ回路は少々過剰だったようで、300Bや2A3よりも歪率が全体的に大きくなっています。 NFBを-6dB掛けてやっと1W時に1%程度になります。もっともこれがうんと悪いかと言うとそうでもなく、古典管を普通に使うとこんな感じらしいです。 図4は300B+5Z3の時の歪率です。300Bも一応古典管ですが、Western Electricの技術力をまざまざと見せられた感じがします。 パワーに余裕があるため典型的なソフトディストーションカーブになり、ハイパワーでもきっと歪みっぽさを感じさせない雰囲気がグラフからも見てとれます。 無帰還でも充分な数値ですが、少しでもNFBを掛けると現代ソースも難なくこなせそうな結果になりました。 図5は2A3+5Z3の歪率です。 思ったより良かったのが2A3です。小さい音で試聴する時は小さいパワー管を使った方が良い、と言う証明になりそうな数値です。 出力が大きくなるにつれて300Bより歪みが大きくなります。4W以上は急に歪率が悪化しますので、2A3を使う場合はクリッピングポイントまで、とした方が良いでしょう。 図6と図7は整流管を83に挿し換えてB電圧を上げ、PX25、300Bのそれぞれの能力を引き出した場合の歪率です。 やはり歪率は下がり本領発揮と言うところです。中でも300Bの方が余裕があるため効果が大きめに出ています。 結局のところ、わずかな差ではありますが、歪率のグラフだけを見れば小出力時は2A3、大出力時は300Bが良いと言う結果となりました。 まあ、後述しますが数値通りに聞こえないのが管球アンプの面白いところでもあります。 |
図3:PX25+5Z3の歪率図4:300B+5Z3の歪率図5:2A3+5Z3の歪率図6:PX25+83の歪率図7:300B+83の歪率 |
図8:周波数特性 |
各パワー管の周波数特性比較です。全て整流管に5Z3を使用した時の左チャンネルです。83の使用時もほとんどグラフが重なって同じでしたので省略することにしました。 プレートチョークによる低インピーダンスドライブの効果が良く出てるのが、この周波数特性です。 ラックスのアウトプットトランス・OY15-3.5KHSの特性の良さも相まってシングルでありながらかなり広帯域になりました。 |
ただNFBを-6dB(実測-8.9dB)掛けた時にPX25で最大+4dB/118kHzのピークが出ましたので、位相補正の必要があります。これも調整前のデータとして見てください。 2A3と300Bの特性曲線はほとんど重なっています。無帰還時はPX25のみ両端で少し早めに減衰が始まり、NFB時は逆にPX25のみ盛り上がっています。これはPX25のゲインが高いためです。 NFBを掛けた時のピークは厳密に見ていくと118kHz、303kHz、980kHz、1.4MHzあたりにありましたが、無帰還時はほとんど目立たず広帯域で、このアウトプットトランス(OY15-3.5KHS)の優秀さが解ります。 |
図9:ダンピングファクター |
図9は整流管に5Z3を使用した時のダンピングファクターです。83を使用した時はもう少し数値が上がると思われます。 パワー管やNFBによってこれだけバラけてバリエーションがあると、音楽によって自在に音質が選べることになります。中でもゲインの高いPX25のNFB量による差が大きく出ており面白いです。 無帰還とNFB-6dBの時に結構曲線が離れていますので、中間のダンピングで良ければNFBスイッチを-3dBにすれば得られます。 2A3と300Bは無帰還でも充分常用できる数値です。(それぞれ2と2.2) 2A3はアウトプットトランスが3.5kΩのため、2.5kΩで使用しているロフチンホワイトのシングルアンプより少し高めの数値になっています。 |
インプレッションPX25をメインで考え、300Bや2A3も挿し換えて使えるアンプのハズが、スペック的には逆になってしまいました。出てきた音もそのような傾向が出ており、実は300Bが一番試聴結果も良く、豊潤で音楽が溢れ出てくる感じです。 屋台骨であるベースが締まっているため、張りのあるボーカル、トランペットのハイノートが艶やか、等々各パートを引き立てており、全域に渡って相乗効果を生み出しています。 2A3も負けてはいません。小音量時の静粛性に優れているため、夜中にひとり静かに楽しむ時は、出てくる音に満たされた感じがします。 実は300Bと2A3の比較で過去にどうしても引っかかっていたインプレッションがありました。 名著・魅惑の真空管アンプの対談で浅野氏が「2A3は音が濁る」と言っていたことです。 実はこのアンプも含めて4種類の違った回路で2A3の音を聴いたことがあります。 1台目は当HPの旧2A3シングルアンプ(5極管単体CR結合によるドライブ)、2台目はロフチンホワイト、3台目は 後ろ3台は同じマルコニーの2A3を挿して比較試聴してみました。 どれもそこまで悪くなく、と言うより良い印象の方が強かったのになぜだろう? と思って何度も魅惑の真空管アンプを熟読したことがあります。 結果、解ったことは浅野氏はどうもWE86タイプの自作PPアンプでの比較を仰っているようでした。あの動作例では2A3には酷な例ですので、やはり2A3も銘球には変わりない、と言うのが私の結論です。 |
これだけ全世界で生産され、使われてきた超有名球ですし、もし人気が無ければここまで使われなかったと思います。でも確かにこのアンプでも2A3の方がクリップ後の歪みの増え方が300Bよりわずかに急ですので、使い方によっては音が濁ることがあるかも知れません。 で、2A3の話が長くなってしまいましたが、肝心のPX25での印象です。同じ直熱3極管でもアメリカ系とヨーロッパ系では違った魅力があると言うことが解りました。 少し線が細い気がしますが、繊細で濁ったところがなく、歪率の数値からは信じられない美音です。もっともほとんどが2次歪みで奇数次の歪みは小さいため澄んだ佇まいが感じられる音のようです。 ちゃんと調整する前ですが、ヘタに位相補正しない方がいいのかな?と思ってしまいました。 3つともドライブ能力は抜群で、クリップ後も入力を入れれば入れただけ出力はアップします。調子に乗ってやると貴重な古典管のエミッションを落としてしまいそうで、そこは注意が必要です。 事実、測定中に少しづつ入力を上げていた時、急にPX25の出力が落ちた時は焦りました。すぐにオシレーターを停止させたため徐々に回復してきましたが、もし回復しなかったら泣くに泣けないです。 やはりPX25にこのドライブ回路はオーバースペックなようで、もっと低スペックでもシンプルな回路で能力を発揮できるところがPX25の良いところ、のような気がします。(音質とは別問題ですが) なお、メーカーごとの挿し換え試聴ですが、まだ良く解るほどしていませんので、いずれ位相補正や打ち消し調整を済ませましたらしてみようかと思います。 現在はPX25、300B、2A3の試聴によるエージングがやっと終わってきたところで、音の棘がとれてきたところです。 |
反省点と今後の改造など唯一心残りなのがわずかに出てしまった右チャンネルのハムです。PX25と300B時、DC点火で使えば約2mVと目立たないところまで抑えられますが、AC点火では5mV程度になり、それではAC/DC切換えにした意味がありません。AC点火でも楽しめるようにしたかったワケです。AC点火は2A3用と割り切ればこのスイッチも意味のあるもの、と思えますが、やっぱりもう少し対策を考えてみたいところです。 |
測定結果を見ると抜群に良い、とは言えませんが、音質的にはこってりした音に満足の行く結果となりました。そうなると 但しもう少しドライバー段と歪みの打ち消しをしたいのと、高域のピークを少し抑えたいため、いずれ再調整したいと思います。 | |
↑製作台に載せて2A3で調整中。ここは製作と電圧・電流などの基本測定だけなので、特性測定は別の場所でしている。 このスペースを空けないと次のアンプが作れない。 |
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